つい最近、新車に乗り換えた。
ドライブするのが好きなツマ子、新車はいくつになってもワクワクする。そんなワクワクの新車がディーラーのアクロバット的な驚きの行動でやってきたときのエピソードです。
「今の車、まだ全然新しいのに乗り換えるの?」
もし近所の人にそう聞かれたら、私は苦笑いしながら「うん、ちょっとね」と答えるかもしれない。
実は少し前、大切に乗っていた愛車が追突被害に遭ってしまった。
走行距離もまだ1万マイルにも満たないほぼ新車同然の愛車だった。
綺麗に修理は完了したものの、一度ついた心のモヤモヤはどうしても消えない。そこへ追い打ちをかけるような、近頃のガソリン代急騰だ。給油のたびに跳ね上がる表示パネルの金額を見ては、密かに心を痛める日々が続いていた。
「そろそろ、ハイブリッドにしてみない?」
そう言い出したのは旦那だった。
(え?ハイブリッド?)
何を隠そう、私はあの重厚なエンジン音を聞きながら走るのが好きなタイプだ。車種ごとに異なるあのエンジン音。ギアチェンジしたときの音の変化。あれが本当に好きだ。
ハイブリッド車なんて運転したこともないし、どこか寂しい気もして最初は戸惑った。しかも追突してきたのはハイブリッド車。正直良いイメージがない。
けれど、旦那にそう言われて仕様と燃費を調べ、気になっていた車の新型ハイブリッドが出て1年が経ち、市場の評価がしっかり安定してきた記事を読み込むうちに、私の気持ちも静かに傾いていった。
「まずは一度試乗してみたら?」
ハイブリッドか…と戸惑う私を見かねて、旦那がディーラーの試乗予約を取ってくれた。
あくまで「乗り心地の確認だけ」のつもりで出かけたのだが――そこはアメリカのカーディーラー。一筋縄ではいかない。
ここからディーラーのセールストークが怒涛のように始まる。
「今日決めてくれるなら、希望のボディカラーが1台だけある!」
「これを逃したら次はいつ入荷するか分からないよ」
(今日は試乗だけ、なんにも準備してきていない。)
セールス担当の押しがとにかく強い。「2週間くらい考えさせて」と伝えても、「今日じゃなきゃダメだ」と言わんばかりの猛アピール。あの独特の圧にタジタジになりながらも、旦那も私もそんなのは何度も経験済みなので、余裕で今日は帰ると告げたのだった。
We can wait...はキラーワード
その後は、旦那のメールボックスには、3日おきに「どうだ?決まったか?」と営業メールが届く日々。アメリカのセールスマンの執念には本当に驚かされる。
そして2週間後。乗るのは私、ツマ子がAIと共に各モデルごとの仕様とコストを比較し、じっくり考えて心を決め、再びディーラーを訪れた。
しかし、営業マンの「今日決めないとなくなる」はまんざら嘘でもなかったらしく、私たちが第一希望にしていたカラーの在庫はすでに影も形もない。
念のために考えておいた第二希望の色も1ランク下のモデルならあると。いまの車が乗れないわけではない、ただ追突の嫌な記憶を塗り替えるために「思い切って色を変えたい」とこだわっていた私は、どうしても妥協したくなかった。
「うーん、やっぱり第一希望の色がいいので、次の入荷まで待ちます。(We can wait...)今回は出直しますね」(本当にすぐに買い替えないといけない理由はなかったので、日本のように納車できるまで待てますよ、という意味だったのだが)
そう伝えて立ち上がろうとした時、営業マンは「ちょっとマネージャーと話してくる」とだけ言い残し、奥の部屋へ消えていった。
買う気の客を絶対に手ぶらでは帰さない
その後、彼はなかなか戻ってこなかった。10分が過ぎ、15分が経とうとする頃、チラリと顔を出して「もう少しかかるから、コーヒーでも飲んで待っていて」と一言。
結局、待たされること30分。てっきり裏でファイナンスの担当者と支払い金額や条件の粘り強い交渉でもしてくれているのだろうとばかり思っていた。
ようやく戻ってきた彼の口から飛び出したのは、予想を遙かに超える言葉だった。
「ご希望の車、用意できますよ!」
「……えっ!?」(夫婦で顔を見合わせて驚く)
思わず声が出た。在庫はないと言っていたはずだ。驚いて聞き返すと、彼はどこか誇らしげにこう続けた。
「今から俺が自分で車を取りに行く。4時間くらいかかるから、その間にここでファイナンス手続きを進めておいて。終わったら一度家に帰って待っていてくれれば、車が届き次第電話するよ!」
4時間……? 彼はいったいどこへ行くつもりなのか。目的地すら言わないまま、彼は颯爽と姿を消した。
後から分かったのだが、彼が向かったのはここから遠く離れたワインカントリー、ナパの店舗だった。
待たされている間に彼が裏で進めていたのは、交渉などではなく、ナパにある1台を確保し、自ら片道2時間かけて運び出すという怒涛の陸送手配だったのだ。
行き先すら告げずに「4時間待て」と言い残して走り去る圧倒的な行動力と、今日の契約を絶対に完結させるという凄まじい執念。アメリカのセールスマンの商魂には、ただただ脱帽するしかなかった。
こうして熱い(?)、いや、凄まじい攻防戦の末、ナパからやってきたツマ子の新しい相棒。
営業マンは「インテリアのカラーは?」「シートの質感は?」と細かく聞いてきたけれど、正直インテリアの見た目にはそこまで興味がない。
私がこだわったのは、何よりもエンジンの立ち上がりとスムースさ。そして最新のテクノロジーによるドライバーアシスト機能。
アメリカの荒いドライバーが多い道路でも守られているという絶対的な安心感、そして買い出しの帰りに両手が塞がっていても足元でパッと開くリアカーゴの地味に嬉しい機能。日々の暮らしのストレスを確実に減らしてくれる「頼れる道具」としてのスペックだ。
エンジン音の寂しさは少しあるけれど、静かに滑り出す走りと、何よりガソリンスタンドでため息をつかなくて済む快適さ。サプライズ的に仕込まれていたイースターエッグの数々。
ナパから遥々やってきたこの新しい色をした車で、旧果樹園の田舎道を抜けて、次はどこへ出かけようかと新車のワクワク感を堪能しています。

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