秋の気配が濃くなると、アメリカのスーパーは少しずつホリデーの顔つきになってゆく。
そしてこの時期になると、店頭にどん、とハムがお目見えしてくる。アメリカのホリデーの風物詩のひとつだ。
ハム、そうハム。日本のハムがこれほど異端だったと気づかされる、あのハム。
アメリカで暮らし始めた頃、私が最初に戸惑ったのは、このハムの存在感でした。あまりにも主張の強いハムだったのです。
日本のスーパーでよく見かけるハムといえば、きれいに整えられた丸や四角の形が一般的です。良くも悪くもそんなに大きな味の差はなく、せいぜいロースハムかボンレスハムの違いくらい。
一方、アメリカのスーパーに行くと、肉の塊そのままのいびつな形をしたハムが主流。
しかも、デリハムは、燻製の種類(Applewood、Black Forest)、甘いグレイズ(Honey、Maple)、さらにはターキーやチキンブレストまで、風味も素材もとにかく多様です。
パックされたものはもちろんのこと、必要な分だけデリカウンターでスライスしてもらったり、Costcoで大容量パックを買ったりするのが日常です。
今回は、アメリカに来て驚いた日米のハムの「形」や「製法」の違いと、アメリカ生活ならではのハム体験をお届けします。
【失敗談】ペラペラの薄切りハムと、貧相すぎたサンドイッチ
アメリカに住み始めた当初、スーパーの売り場で手にしたDeliハムのパックに、私はかなり戸惑いました。
日本のハムは1枚ずつしっかり厚みがあり、食パンの形にフィットする綺麗な円形です。
しかしアメリカのパックのデリハムは、出てくるのは形もバラバラで乱雑なペラペラの薄切り肉。
日本の感覚が抜けなかった私は、パンの間にその薄切りハムを丁寧に1〜2枚だけ敷いてサンドイッチを作っていました。
すると…仕上がりはパンの厚みに完全に負けた、驚くほどぺったんこでなんとも貧相なサンドイッチに(笑)。
あとから友人と笑い話となって知ったのですが、アメリカのサンドイッチは、あの薄切りハムを「しゃぶしゃぶ肉のようにふんわり折りたたんで、何枚も層にして重ねる」のが正解。
形が不揃いなのも、重ねてドカンとボリュームを出すためなら何の問題もなかったのでした。
まぁ確かに言われてみれば、アメリカのサンドイッチ、特にサブはこれでもか!というほどぎっしりハムが詰まってますよね。
1. デリで愛される「Boar's Head」と肉本来の形
日本の一般的な安価なハムは、細かくした肉を結着剤などで固めて型にはめる「プレス成型」が多いのに対し、アメリカのデリで人気のハムは、豚のもも肉本来の組織や形を残したまま仕込まれます。
全米で圧倒的な人気を誇る「Boar’s Head(ボアーズヘッド)」などの塊肉を見てもわかる通り、余計な成型加工を行わないため、スライスした形はいびつで自然そのまま。
ヨーロッパをはじめ、近年アメリカでは過度な加工(Ultra-processed)食品を避ける意識が高まっています。
その流れもあって、肉本来の質感を残したハムが“より自然で良いもの”として選ばれる傾向があります。
さらに近年は、デリやCostcoのパック商品(Kirkland Signatureなど)でも、化学合成の亜硝酸塩を使わず、セロリパウダーなど天然由来成分で仕込んだ「Uncured」「No Nitrates or Nitrites Added(天然由来成分に含まれるものを除く)」という表示の商品が増えています。
これは筆者の独断ではなく、USDA(米国農務省)の表示規定により、合成亜硝酸塩を使わない場合は必ずこの表記を付けることが義務づけられているものです。
アメリカでは人工的な添加物を避けたい人が増えており、成分面でも“より自然な選択肢”が求められるようになっています。
2. ホリデーの主役!圧巻の「スパイラルカット骨付きハム」
そして、ツマ子も当初は驚いたのですが、アメリカのハム文化を語るうえで絶対に外せないのが、サンクスギビングやクリスマス、イースターなどのホリデーシーズンに登場する巨大な「スパイラルカット骨付きハム(Spiral Sliced Bone-In Ham)」です。
日本じゃ、骨付きハムをましてや食卓にドーンと置くなんてまずありえないじゃないですか。
だからツマ子も初めて見たときは、
「これを食べるのかい?どうやって?どこから?」
と本気で戸惑ったんです。
まさに豚の後ろ脚、そのまんま!という迫力。
骨の周りにぐるりと渦巻き状の切れ目が入っていて、売り場でその巨大な塊を前にしたツマ子は、料理というより“謎の儀式”の準備を見ているような気分になりました(笑)。
冗談はさておき、この巨大な脚、いやハム、オーブンで甘いグレイズ(ハニーやメープル、ブラウンシュガーなど)を塗りながらこんがり焼き上げると、切れ目から綺麗に肉がはがれ、食卓で豪快かつ簡単に取り分けられる優れもの。
アメリカ人にとってハムは、日々のサンドイッチの具材であると同時に、特別な日に家族で囲む「ごちそうの象徴」でもあるのです。
在米10年にもなるツマ子、当然一度は試しましたよ、ホリデーにドカンと。
ただ、ハムって本来塩漬け肉じゃないですか。だから結構塩気が強いのです。たくさん食べるものじゃないな、というのが正直な感想。
雰囲気はゴージャスで肉肉していてホリデー感満載なのですが、これは大人数ですこ〜しずつ食べるのが平和な食べ方だなって思いました。
まとめ:素材そのものを豪快に味わう文化
日本のハムに見られる整った形は、お弁当に入れやすい使い勝手の良さや、見た目の美しさを重んじる日本の食文化のあらわれです。
一方でアメリカは、普段使いの薄切り肉も、ホリデーの巨大な骨付き肉も、素材のあるがままの形や質感を楽しんで豪快に味わうスタイル。
最初は乱雑に見えた薄切りハムの扱いに苦戦した私ですが、今ではふんわり重ねた肉厚サンドイッチも作れるようになりましたし、ホリデーの香ばしい骨付きハムは、うん、今年も売ってるね、とスルー出来ます(笑)。
でも今でもアメリカのハム売り場を初めて見たときの戸惑いは忘れられません。
「種類多すぎない?どれが正解なの?」って、毎回しばし固まってました。
けれど、こうして日米のハム文化を見比べてみると——
あの選べない問題にもちゃんと理由があったんですよね。
ハムひとつでここまで違うなんて、面白いどころか深いにもほどがある。
ちなみにツマ子のお気に入りはスモークが薫るBoar's headのBlack forestです。
次に売り場で迷ったら、「文化の違いだし、まぁいっか」と軽く笑って選んでみてください。

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